2018年10月3日水曜日

アメリカ精神医学会 (APA) の研究によって支持された治療

 エビデンス、EBM、EBPという言葉はよく耳にするようになったが、EBMとは何でしょう?原田 (2015) 「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス」を引用します。

Sackett et al. (2000) は、Guyatt の定義をさらに一歩進めて、以下のように述べている。

Evidence-Based Medicine (EBM) とは、研究による最善のエビデンスと臨床的技能、および患者の価値観を統合するものである。

これは現在のところ、最も一般的なEBMの定義である。つまり、EBMとは、①エビデンス、②患者の価値観、③臨床技能、という3つの要素を統合したものである。

 このようにEBMとは絶対的なものではなく、最新のエビデンスを吟味して、目の前の患者さんの状態や価値観に合わせ、さらには援助者が提供できる技術を考慮して、置かれた状況の中で最善と思われる選択をしていくことだと思われます。
 その情報のとっかかりの1つとして、アメリカ精神医学会は、精神疾患の診断分類ごとに、研究によって支持された治療についての情報を提供しています。本エントリーでは、概要を訳して紹介します。詳しい情報はそれぞれのリンクを参照してください。

 推奨レベルは、1998年の基準では、以下の3つです。

  • Strong: 強い支持
  • Modest: 中程度の支持
  • Controversial: 議論の余地がある

 また、現在は2015年の基準で再評価作業中です。2018年10月2日時点で、2015年基準が適用されているのは強迫症のERPのみでした。

研究によって支持された治療

神経性無食欲症
  • 認知行動療法(退院後の再発防止には中程度の支持;迅速な体重増加には議論の余地が残る)
  • 家族ベース療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
1998年の基準では、家族ベース療法はCBTよりも推奨されている。
 


ADHD(成人)

  • 認知行動療法(強い支持)

 サフレンのワークブックがこの領域をカバーしている。




過食性障害 (Binge Eating Disorder)

  • 認知行動療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • 対人関係療法(強い支持)

 CBTマニュアルのPDF(英語)



双極性障害

  • 認知療法(うつ・躁に中程度の支持)
  • 家族焦点化療法(うつに強い支持)
  • 対人関係社会リズム療法(うつに中程度の支持)
  • 心理教育(躁に強い支持・うつに中程度の支持)
  • システマティックケア(躁に強い支持)



境界性パーソナリティー障害 (Borderline Personality Disorder)

  • 弁証法的行動療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • メンタライゼーションに基づく治療(中程度の支持)
  • スキーマ(焦点化)療法(中程度の支持)
  • 転移焦点化療法(強い支持/議論の余地がある)

 BPDの領域では、力動的な精神療法がエビデンスを示してきている。



神経性大食症 (Bulimia Nervosa)

  • 認知行動療法(強い支持)
  • 家族ベース療法(中程度の支持)
  • 健康的体重プログラム(議論の余地がある)
  • 対人関係療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)



慢性頭痛 (Chronic Headache)

  • 認知行動療法(強い支持)

 頭痛のいくつか(例:緊張性頭痛)は、頭部・首の筋肉の緊張や持続的で不自然な動作(例:頸椎性頭痛)と関連している。他の頭痛は神経の影響や、血管の変化、吐き気、時には視覚障害(例:片頭痛)に関連する。
 リラクセーション、マインドフルネス、痛みに対する認知的対処スキルなどが頭痛の軽減をもたらす。



慢性腰痛 (Chronic Low Back Pain)

  • 認知行動療法(強い支持)

 用いられる手法:time-contingent pacing, spouse involvement and reinforcement of adaptive responding, use of quotas and goals for gradual return of functioning, 情動反応と認知反応のリフレーミング、コーピング、リラクセーション。
 コクランに日本語で読める慢性腰痛への行動療法のシステマティックレビューの要約



慢性疼痛 or 持続性疼痛 (Chronic or Persistent Pain)

  • 筋繊維痛へのマルチ構成要素認知行動療法(強い支持)
  • Acceptance & Commitment Therapy(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • 行動療法・認知行動療法(強い支持)
  • 認知行動療法(強い支持)
  • リウマチ性疼痛へのマルチ構成要素認知行動療法(強い支持)




全般的な慢性疼痛 or 持続性疼痛;多数の症状を含む  (Chronic or Persistent Pain in General; including numerous conditions)

  • Acceptance & Commitment Therapy(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)




コカイン (Cocaine)

  • 報酬ベースの随伴性マネジメント(中程度の支持)




うつ病 (Depression)

  • Acceptance and Commitment Therapy (2015 再評価を待つ;1998 中程度の支持)
  • 行動活性化(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • Cognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapy(強い支持)
  • 認知療法 (2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • 情動焦点化療法 (2015 再評価を待つ;1998 中程度の支持)
  • 対人関係療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • セルフマネジメント/セルフコントロール療法(強い支持)
  • 問題解決療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • 論理情動行動療法(中程度の支持)
  • 回想法/ライフレビュー療法(中程度の支持)
  • セルフシステム療法(中程度の支持)
  • 短期精神力動療法(中程度の支持)




子ども・青年期の障害 (Disorders in Childhood and Adolescence)





筋繊維痛 (Fibromyalgia)

  • マルチ構成要素認知行動療法(強い支持)




全般不安症 (Generalized Anxiety Disorder)

  • 認知行動療法(強い支持)




不眠 (Insomnia)

  • バイオフィードバック療法(中程度の支持)
  • 認知行動療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • 逆説志向 [paradoxical intention](強い支持)
  • リラクセーション訓練(強い支持)
  • 自己制限療法[self restriction therapy](強い支持)
  • 刺激制御療法 [stimulus control therapy](強い支持)




混合性不安状態 (Mixed Anxiety Conditions)
・Acceptance and commitment therapy (2015 再評価を待つ;1998 中程度の支持)



混合性物質使用障害/依存 (Mixed Substance Abuse/Dependence)

  • フレンズケア(中程度の支持)
  • ガイドつきセルフケア(中程度の支持)
  • 動機づけ面接、動機づけ強化療法 [MET: Motibational enhancement therapy]、MET + CBT(強い支持)
  • 報酬ベースの随伴性マネジメント(強い支持)
  • 安全確保 [seeking safety](成人に強い支持、青年期に中程度の支持)




肥満と小児の過体重 (Obesity And Pediatric Overweight)

  • 行動療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)




強迫症 (Obsessive-Compulsive Disorder)

  • エクスポージャーと反応妨害法(2015 強い支持;1998 強い支持)
  • 認知行動療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • Acceptance and commitment therapy(中程度の支持)




パニック症 (Panic Disorder)

  • 応用リラクセーション(中程度の支持)
  • 認知行動療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • 精神分析的治療(中程度の支持/議論の余地がある)




心的外傷後ストレス障害 (PTSD; Posttraumatic Stress Disorder)

  • 認知プロセス療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • EMDR(サイト更新保留中)
  • 現在中心化療法(サイト更新保留中)
  • 持続的エクスポージャー療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)
  • 心理的デブリーフィング(支持なし/この治療は潜在的に有害である)
  • ストレス免疫訓練(中程度の支持)
  • 安全確保 [Seeking safety] (強い支持)



リウマチの痛み (Rheumatologic Pain)

  • マルチ構成要素認知行動療法(強い支持)



統合失調症と他の重篤な精神疾患 (Schizophrenia and Other Severe Mental Illnesses)

  • 主張的コミュニケーション訓練(強い支持)
  • 認知的適応訓練(中程度の支持)
  • 認知行動療法(強い支持)
  • 認知機能改善療法 [Cognitive Remediation] (強い支持)
  • 家族への心理教育(強い支持)
  • 疾病自己管理とリカバリー [Illness Management and Recovery] (中程度の支持)
  • 社会的学習/トークンエコノミーシステム(強い支持)
  • 社会的スキル訓練 [SST] (強い支持)
  • 援助つき雇用 [Supported Employment] (強い支持)
  • Acceptance and commitment therapy(中程度の支持)




喫煙 (Smoking)

  • 体重増加防止を伴わせた禁煙(中程度の支持)



社交不安症とスピーチ不安 (Social Anxiety Disorder and Public Speaking Anxiety)

  • 認知行動療法(2015 再評価を待つ;1998 強い支持)




限局性恐怖症 (Specific Phobias)

  • エクスポージャー療法(強い支持)



おわりに

それぞれのリンクを辿っていくと、APAが推奨の根拠としている論文が紹介されていたり、治療マニュアルや教育などについての幅広い情報に触れることができます。このブログで完結せずに、情報をどんどん辿って行ってください。

また、EBMに関しては、Wikipediaの記述も増えてきており、エビデンスを検索するためのPICOや、エビデンスを評価するGRADEシステムなども紹介されています。

最初に引用した以下の書籍もとってもオススメなので参考にしてみてください。