2018年7月18日水曜日

認知バイアスに関する情報まとめ

認知バイアスは、意思決定や判断に影響を及ぼす。それは、日常生活から臨床活動に至るまで様々なことに対して。全くバイアスのかからない完全にフラットな視点を持つことはできないけれど、自らの中の偏りに気づくことのできる回数を増やしたり、それを踏み越えられる判断を重ねていけるようになりたい。そこで、認知バイアスについての情報を少しずつまとめていく。随時更新予定。
認知バイアス(cognitive bias)とは、認知心理学や社会心理学での様々な観察者効果の一種であり、非常に基本的な統計学的な誤り、社会的帰属の誤り、記憶の誤り(虚偽記憶)など人間が犯しやすい問題である。また、これが動因となって虚偽に係る様々なパーソナリティ障害に付随するため、謬想ないし妄想などを内包する外延的概念に該当する。転じて認知バイアスは、事例証拠や法的証拠の信頼性を大きく歪める。 認知バイアス - Wikipedia(2018/7/18検索)
 検索すると丁度よい論文を見つけた。
Croskerry, P. (2003). The importance of cognitive errors in diagnosis and strategies to minimize them. Academic Medicine, 78(8), 775–780.
この論文は、医学的診断の誤りに関連する認知バイアスとその対処についてまとめている。

タイトル「診断における認知エラーの重要性と、それらを最小化するための方略」
要約:患者の安全の分野では、近年、診断の誤りが注目されている。関連する合併症や潜在的な予防可能性のために、診断エラーの減少は重要な目標である。診断エラーの重要な一部は、認知的エラーであり、それは知覚の誤りおよび、ヒューリスティックの失敗、バイアスに関連して生じる;ひとまとめにして、これらはcognitive dispositions to respond (CDRs)と呼ばれている。歴史的に、意思決定 (decision-making) のモデルは、このようなバイアスの影響に十分な注意を払わず、バイアス低減技法による認知的パフォーマンスの改善に対する悲観主義が支配的であった。最近の研究は、医学における主要な認知バイアスを列挙している;著者はこれらをリスト化し、それらを減らすためのいくつかの方略を記述する(「認知的バイアス低減 (cognitive debiasing)」)。この中での原則はメタ認知であり、直面する問題から踏み出し、思考過程を検討して反映することを含む問題解決への内省的 (reflective) アプローチである。医学の文脈におけるCDRの完全な記述と分析、関連するネガティブなアウトカムを回避するための技法の開発へ、今後のより多くの研究努力が向けられるべきである。このアプローチでは、認知的診断エラーを減らすために、相当なポテンシャルが存在している。著者は、CDRの広範なリストと、診断エラーを減らすための方略のリストを提供する
この論文でのバイアスリストを以下に引用する(日本語Wikipediaへのリンクは管理人[サク]が加えている)。

  • 集計バイアス (Aggregate bias)
  • アンカリング (Anchoring):[参照:アンカリング - Wikipedia]
  • (診断の)確認バイアス (Ascertainment bias):医師の考えが事前の予測によって形作られた時に生じる。ステレオタイプとジェンダーバイアスの両方が良い例である。
  • 利用可能性 (Availability):用意に頭に浮かぶ場合、その事態が生じる可能性が高い、または、頻繁に生じると判断する傾向。したがって、最近遭遇した疾患についての経験は、その診断がつけられる可能性を高めるだろう。反対に、長い間観察されていない(利用可能が低い)場合、診断されない可能性がある。
  • 基準比率の無視 (Base-rate neglect):疾患の真の有病率を無視する傾向、その基準比率を誇張または減少させ、ベイジアン推論を歪める。
  • 作為(実行)バイアス (Commission bias):積極的介入によってのみ患者の苦痛を防ぐことができるという、恩恵をうけるための義務感から生じる。これは、「行動しないこと」ではなく、むしろ「行動する」傾向である。自信過剰な医師に認められる可能性が高い。作為(実行)バイアスは、不作為バイアス (omission bias) よりも、一般的ではない。
  • 確証バイアス (Confirmation bias):診断を支持しないエビデンスの方が大抵はより説得力があり決定的であるにもかかわらず、診断を支持しないエビデンスと比べて、診断を支持するエビデンスを探す傾向である。[参照: 確証バイアス - Wikipedia]
  • 診断モメンタム (Diagnosis momentum):一度、診断ラベルが患者に貼りつけられると、それはどんどん粘着性を高めまとわりつく傾向がある。仲介者(患者、救急医、看護師、医師)を経由することで、最初は「可能性」として始まった診断名はそれが確定するまでモメンタムが増加し、他の可能性はすべて排除される。
  • フィードバック制裁 (Feedback sanction):無知 (ignorance) のトラップと時間遅延トラップCDRの一形態。診断エラーをするとそれが直ぐに結果をもたらすことはない。エラーが発見されるまでにかなりの時間が経過する可能性があり、システムのフィードバックプロセスが悪いと、診断を決断した者に重要な情報が伝わらないことがある。
  • Framing effect
  • Fundamental attribution error
  • Gambler's fallacy
  • Gender bias
  • Hindsight bias
  • Multiple alternatives bias
  • 不作為バイアス (Omission bias):行動を起こさない傾向であり、無害原則に根差している。後から振り返って考えれば、疾患の自然な進行によって生じた出来事は、医師の行為に直接起因する出来事よりも受け入れやすい。このバイアスはしばしば何もしないことにつながり、強化され持続しうるが、それは悲惨な結果につながる可能性がある。不作為バイアスは、通常、作為バイアスを数で上回る。
  • Order effectts
  • Outcome bias
  • Overconfidence bias
  • Playing the odds
  • Posterior probability error
  • Premature closure
  • Psych-out error
  • Representativeness restraint
  • Search satisfying
  • Sutton's slip
  • Sunk costs
  • Triage cueing
  • Unpacking principle
  • Vertical line failure
  • Visceral bias
  • Yin-Yang out
次は、診断エラーを低減するための認知バイアス低減のリスト

  • 洞察/意識性を高める (Develop insight/ awareness):意思決定と診断フォーミュレーションに対して悪影響を与える複数の臨床例を示すとともに、既に知られている認知バイアスの詳細な記述と特徴づけを提供する。
  • 代替案を考慮する (Consider alternatives):代替可能性を強制的に確立する、例えば代替診断を立てる、鑑別診断を行う。定期的に質問することを奨励する:この診断以外に何があるだろうか?
  • メタ認知 (Metacognition):問題解決への省察的アプローチのためのトレーニング:即時的な問題から踏み出して、思考プロセスを検証して省察する。
  • 記憶への依存度を下げる (Decrease reliance on memory):さまざまな認知的な補助 (cognitive aids) を通して判断の精度を向上させる。記憶術(二―モック, mnemonics)、臨床実践ガイドライン、アルゴリズム、手持ち式のコンピュータ。
  • 特異的なトレーニング (Specific training):思考の具体的な欠陥やバイアスを特定して、克服するための指導的な訓練を提供する。例えば、確立の基本的なルールに対するインストラクション、因果関係と相関関係の区別、基本的ベイジアン確立理論。
  • シミュレーション (Simulation):認知バイアスの可能性のある特定の臨床的なシナリオをつくり、認知的なリハーサル、「認知的ウォークスルー」方略を開発し、それらの結果を観察する。
  • 認知的フォーシング方略 (Cognitive forcing strategies) :特定の臨床状況における予測可能なバイアスを避けるための包括的具体的な方略を獲得する。
  • タスクをより簡単にする (Make task easier):タスクの難しさと曖昧さを軽減するために、特定の問題についての情報をより多く提供する。関係で、明確で、よく組織化された情報に素早くアクセスできるようにする。
  • 時間的プレッシャーを最小化する (Minimize time pressures):質の高い意思決定のための適切な時間を提供する。
  • 説明責任 (Accountability):意思決定の明確な説明責任とフォローアップを確立する。
  • フィードバック (Feedback):できるだけ迅速かつ信頼できるフィードバックを診断(意思)決定者に提供して、エラー(誤り)をすぐに歓迎し、そして、理解し、修正する。結果的に診断(意思)決定者のより良い較正(こうせい;Calibration;当初の判断がどれだけズレているかを知り、修正する)をもたらす。26
*以下からの情報: Slovic and Fischhoff (1977),19 Fischhoff (1982),15 Arkes (1986),16 Plous (1993),23 Croskerry (2002),9 and Croskerry (2003).10