2018年3月1日木曜日

そもそも精神症状が分からないなら、シムズ記述精神病理学を読め

 エントリーのタイトルは、以前、ワークショップの講師の先生が語っていたことです。当時、「あ~。確かに、僕、そもそも精神症状が何か分かってないな」と思い、公認心理師試験もあるし、良い機会なので読んでみました。



 そもそも記述精神医学 (descriptive psychiatry)とは、
精神障害の外的徴候と行動現象の厳密な記述をその方法論的基礎とする精神医学である。20世紀初頭にクレペリンにより打ち立てられ、時には静的精神医学(static psychiatry)とも呼ばれる。力動精神医学(dynamic psychiatry)と対になる立場であるが、力動精神医学を否定するものではない。記述精神医学においては、精神科医は観察可能な行動や状態に注目する。例えば患者の話し言葉や、患者のとった行動などである。感情や精神機構に焦点を合わせる力動精神医学とは対照的に、記述精神医学は外面の徴候に焦点を合わせる。比較的一般的なこれら二つの基本的アプローチは、長い年月をかけ現代においてなお発展し続けている。記述精神医学の主な業績の一つは操作的診断学である『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)の作成においてその方法論的基礎を成した点であり、データの裏付けのほとんどとれない精神科疾患の計量化及び均質性を担保する科学性を与えた点で評価される。記述精神医学 - Wikipedia
 この本で、最初に出てくるキーワードが共感であることが興味深い。
記述精神病理学における共感の概念は、観察者が自分の感情や認識経験を指標に、他者の内的主観的状態を測る技量を必要とする、臨床的道具である。…他人の内的な経験の観察者になることは可能だろうか。ここで共感の過程が関わってくる。記述精神病理学はしたがって主観的な側面(記述現象学)と客観的な側面(行動の記述)を含む。...共感の方法は、体系的な質問事項を通じて、患者が置かれた状況に自分を置きかえることで成り立つ。患者が何を言おうとしているのかを確実に把握するため必要に応じて言い換えたり、反復したりする。...記述現象学を精神状態の診断で使うことは顕微鏡を使って調べるのに似ている。血液像は焦点を合わせてみるだけではその意味がない。そのスライドをずらしながら全体から重要な部分を選ばなければならない。患者との会話に多くの変わった考えや奇妙な言及があるかもしれないが、面接者が診断を行う上で意義のある特性の精神病理学上の症状を聞くことは1回しかないかもしれない。

 正常な意識状態から死までの連続体の説明は非常に分かりやすかった。「正常な意識状態」 ⇒ 「意識混濁」 ⇒ 「眠気」 ⇒ 「昏蒙(こんもう)」 ⇒ 「昏睡」 ⇒ 「死」 である。この意識混濁は、思考、集中力、周囲に対する認識の低下などが起こる状態で、この意識混濁に奇妙で強迫的な思考や幻覚、錯覚などが加わる状態のことをせん妄という。上記の状態で、どの程度の刺激に対してどの様な反応が生じるかも細かく記載されている。

 妄想的雰囲気の記述は、その内的な世界で何が起こっているのかを伝えてくれる。
妄想的雰囲気 (delusional atmosphere) を体験している患者にとって、彼の世界は微妙に変わっていて、「何かおかしなことが起こっている」あるいは「新しい意味に満ちた全世界を差し出されている」。・・・妄想的雰囲気は根底の病的過程の一部であり、また、しばしば統合失調症の最初の症状であり、十分に形をなした妄想知覚や妄想着想が生じる背景であるからである。・・・妄想形成が完成すると、彼はしばしば、それまでの雰囲気の耐えられない緊張から解放されて、ほっとして妄想を受け入れているようにみえることがある。
古い書籍であるため表現は分かりにくい部分もあるけれど、注意や思考過程、自己の障害など、詳細に記述されていて、とても参考になった。