2018年11月17日土曜日

中災防の心理相談専門研修 参加記

 この度、中災防の心理相談専門研修を受けたので、その様子をまとめます。まず、心理相談員とは、

厚生労働省 労働基準局所管、特別民間法人 中央労働災害防止協会が認定する労働安全衛生関連の公的資格の名称、およびその有資格者のことである[1]。 同協会の定める「心理相談専門研修」受講資格を要しており、認定試験は無いが、同協会が実施する専門研修を受講し、全課程修了後、登録申請すると指導者認定される[1]。3年ごと更新が必要。Wikipedia − 心理相談員

 申し込みは、臨床心理士であれば申込書に記入して、臨床心理士資格登録証明書のコピーと一緒にFAXする。参加費47,310円と価格は高い。以下は、中災防のHP。


 ということで3年ぶりに広島県にやってきました。この研修は、東京、大阪、愛知、福岡、広島で年15回開かれています。連続3日での研修でした。尚、広島会場では昼食のお好み焼きを注文することができます。広島風お好み焼きが650円でした。

1日目

まずは働く人の健康づくりについての動向です。安全衛生について、行政や指針、歴史的経緯などを中心に総論の講義が行われます。

 主なテキストは、2つです。

  • 心とからだの健康づくり専門研修 働く人の健康づくりの動向
  • 心の健康づくりのための心理相談担当者必携


 これらに加えて講師から提供される資料があります。

 最初の講習は中央労働災害防止協会の方からメンタルヘルス対策の動向が説明されました。行政が使っているデータをもとに、現在のシステムが作られていった経緯や特徴が分かりやすく解説されます。高プロや電通なども何度か話題にのぼりました。
 個人的に一番知りたかったのは、心理相談員の位置づけについてです。そもそも、この研修に参加したきっかけは、公認心理師現任者講習テキストの中で、「メンタルヘルスケアは、所定の研修を受講した心理相談担当者が産業医の支持のもとで行う。」と明記されていたことです。この講習を受けることが、産業領域で相談活動をする上で重要な意味を持つのかが調べても良く分からなかったので、確かめたいという動機がありました。
ストレスチェック指針の中では、
事業者は、ストレスチェック結果の通知を受けた労働者に対して、相談の窓口を広げ、相談しやすい環境を作ることで高ストレスの状態で放置されないようにする等適切な対応を行う観点から、日常的な活動の中で当該事業場の産業医が相談対応を行うほか、産業医と連携しつつ、保健師、看護師若しくは精神保健福祉士又は産業カウンセラー若しくは臨床心理士等の心理職が相談対応を行う 
という記載になっています。ここに心理相談員の名前はありません。この経緯については、この条文を作る際にパブリックコメントが募集された際、中災防としては「心理相談員」の明記を希望したようです。しかし、それは実現化しなかった。ただし、明文化されていないものの、厚労省の立場としては心理相談員は「心理職」に含まれると説明がなされていると講師の方は解説されていました。

 臨床心理士・公認心理師を持っている場合に、この講習を受けることで触れることのできる業務範囲が広がるわけではないというのが、私の理解です。

 ここが1番気になっていた所なので、講習料は高かったですが、明確に理解することができてよかったです。
 「どんな相談活動を行うのか?」ということについても解説がありました。メンタルヘルスケアが必要と判断された場合または労働者自身が希望する場合に、心理相談担当者が産業医の指示のもとにメンタルヘルスケアを行います。心理相談では、「来談者を『受容』、『共感』、『支持』することで対応可能なもの」への相談が基本的には求められるとのことです。
 一方で、「来談者のこころに介入し、何らかの心理的操作をしなければ対応できないもの(a)カウンセリングによる対応で可能なもの、(b)精神医学的、心身医学的な対応が必要なもの」への対応は、この研修を3日受けただけの心理相談員では対応が難しいため、産業医等へつなぐ役割が推奨される。
 それはそうですよね。3日間の研修を受けたのみの状態で、特別な心理的支援を求められるのはさすがに無茶です。ただ、「臨床心理士などを持っている人は、カウンセリングの技能を持ってそれに加わる対応をしていただくこともできる」という旨の説明はありました。


 その他の内容で興味深かったのは、「現在では良い企業も悪い企業も公表される時代になっている」という話し。ウェブで見ることができます。


 ちなみに、労働基準関連法令違反に係る公表事案は定期的に更新されていますが、緊急情報配信として提供されているので、最新のものを調べるにはグーグルで検索するのが一番です。その他、がんや精神疾患などの治療と仕事の就労の両立マニュアルなど便利そうでした。


 午後は、メンタルヘルス、心身医学・精神医学の基礎知識です。基本的な内容でしたが、職場の中で、うつ病の人に気づくために、どのようなポイントを見れば良いのか?上司は何と声をかければ良いのかなど、分かりやすく説明されました。

2日目

2日目はメンタルヘルスケアに関する講義が主です。
 1つめは、マイクロカウンセリングについての技法の説明とロールプレイです。
 次に、交流分析の講義を受けます。心理相談員の必携本でも、交流分析に多くのページが割かれています。性格特性の把握や、相手のタイプによった関わり方の指導を相談員自身が心がけたり、職場の上司に指導する時に用いやすいということで採用されているものと推測します。ただ、今の時代であればパーソナリティ理論であればBig Fiveだとかもう少し頑健な理論を説明した方が良いのではないか、と思いました。
 3つ目のリラクセーションの講義はとても興味深かったです。最近は、心理療法のなかでリラクセーション法が用いられる頻度はCBTを中心に下がってきていると感じますが、健康増進という文脈では良い効果を示すのかもしれないと思いました。この辺りは、いつか文献にあたってみたいと思います。

3日目

2日目の最後のコマと、3日目は心理支援相談員の実際の活動や事例検討です。いずれも開業している2名の心理相談員が講師でした。私は産業領域でほとんど活動したことがないので、一番印象に残ったのは、産業領域のカウンセラーの人ってこういう感じなのだなということです。

感想

企業内でのメンタルヘルスについては、思ってた以上に「健康増進」が重要。教育やリラクセーションの研修とか、そういった部分が求められるのだろう。研修には、企業の総務、人事の方達が多く参加されていて、相談を受けるけれどどう対応したら良いか知識をつけたくて申し込んだという話をよく聞きました。

 指導者登録については少し様子を見ようと思います。今のところ、何かの法律や条文に明記された資格ではなく、臨床心理士や公認心理師を取得した場合に、必要に迫られることはほとんどないように思いました。幸いにも研修から登録までの有効期限が3年ほどあるので、2021年までにどうするかを決めようと思います。

 一方で、産業領域で働くということを考えると、教育や医療とはまた違った知識や技能、働きが求められるというのは、強く感じました。そうした時には、公認心理師の産業領域での上位資格みたいなものが必要なのかな?と思いますが、利権なども色々と絡むのでしょうから難しいものですね。