本書は全体を通して理解しやすいように記述されています(後半は内容自体が難解なので読みにくく感じるかもしれませんが)。「行動療法の中だけ、認知療法の中だけであれば統一的なアセスメントは可能であるが、両者を合わせて使う場合には、目の前の問題に対してどちらを使ったらよいかを判断する基準が原則的に存在しない」ということが1つのテーマになっています。
第一・二世代行動療法と比較した第三世代行動療法の特長についてBaer(2008)を引用し(私は読んでないので孫引きですが・・・)、「一言で言うと、「マインドフルネスとアクセプタンスの導入」ということになる」という説明もしっくりきました。
メタ認知療法についての解説をしている部分も非常に興味深いです。私もウェルズとマシューズの『心理臨床の認知心理学』は、以前読みかけていたんですが内容が難解で訳書特有の読みにくさもあり積読状態になっていました。本書のメタ認知療法の解説は著者が情報を集め日本語で最初から日本語で書かれていることもあり、非常に分かりやすかったです。「MCTは通常の認知の内容ではなくプロセスや機能を変えようとしているのであるが、それはメタ認知の内容に働きかけることを介してなのである。」という(同様なことを体験的な気付きを用いて達成しようとする)ACTなどとの違いがはっきりするように記述してあります。
個人的に大きな示唆を受けたのは、MCTの考え方とACTなどの考え方について「これはどちらが正しいといった問題ではなく、人間観や世界観の違いであり・・・」という点です。よく精神分析や行動療法の議論の中で、「相手が間違っている」というような形で攻撃をする方がいます。けれど、その根底にある「主義」が異なっているので最初から同じ土台が既に違っているんですね。そこで、「正しい」「正しくない」と相手を批判したところで、どのような方向性で比較をしているかという方向性を示せなければ正に平行線になってしまいます。どういうものさしの上において比較をするのか、どの観点からも物事を眺めているのかということは、忘れがちになってしまうことなので注意したいと思いました。
なにより最も興味深かったのは、ACTのアセスメントと介入を紹介するときに、ヘキサフレックスではなく随伴性ダイアグラムの中にアクト技法を統合しているところ(一部改変して引用します)。
この図を見るためだけに本書を買っても惜しくない!と思うくらい良かったです。