2016年8月14日日曜日

行動療法研究「特集:ACT事例研究(1)」の感想

行動療法研究 第42巻(2)でアクセプタンス&コミットメント・セラピーの事例研究の特集が組まれました。その感想です。
「行動療法研究」特集号の論文を公募いたします!

坂野ら (2016)

全体的にそうだけれど、事例論文は実際にケースで手続きを行う参考になる(私がACTをするかどうかは別にして)。氷を握るエクササイズや、谷(2016)のクリップボードのエクササイズ、入江ら(2016)の椅子から飛び降りる体験などは、非常に興味深かった。苦痛や不安の有無に「過度に囚われるとそれらの有無を中心とした生活に陥りがちになる」という表現は、スッと腑に落ちそうな表現だと感じた。よくACTで「という考えを持っている」という表現が使われるけど、この事例でも特に「という思考をおんぶしている」とか「抱っこしている」とかって言い方も、日本人の感覚的には合ってるんじゃないかな?Fig. 2の随伴性ダイアグラムの書き方も参考になる。
 論文へのコメントからは、「行動の機能の変化をどのように測定するか」という重要な投げかけがあった。リプライでは、壮大な話(勉強が足りないからACTを始められないというのは体験の回避だ。さあACT始めよう!)が中心だったことと、報告行動が正確になってCl.の語る理由づけを確認するという方向だったけれど、前後関係の比較ができればよい訳なので、随伴性記録をズッと取ってもらって、先行刺激と結果事象をACT前後で比較するという方法がシンプルじゃないかな?と思った。

谷 (2016)

今回の特集論文の中で最も興味深かった。ACTに基づいた先延ばし行動への介入。「嫌悪的な体験があっても行動のレパートリーを拡大しようとすること」という文言が印象に残った。タイムマネジメントを行う時には、課題を解決することやセルフマネジメントできるということが中心だけれど、この自分を変えていくことを明記するのはとてもワクワクする表現だ。あと、Tシャツの文字のメタファや時計を持って歩くエクササイズも分かりやすい。島宗(2014)の「じぶん実験」がコメントで引用されていて「何かをしたいと考えている自分の行動を変えていきながら、同時に自分を理解」というのは、自分の生活でも実践していきたいし、Cl.へも自覚が促されると生活に役立つものだろう。
 あと、マインドフルネスで「回避行動が生じるまでの潜時を増大」させ、「選択の機会を提供する」というのは、これまで説明されてきたマインドフルネスの効果と違って不安障害などにとても有用なものだ。

入江ら (2016)

この論文でも、マインドフルネスが「回避行動と拮抗する行動の獲得」、「孤独感や落ち込みといった感情に注目しすぎずに活動から生じる身体感覚をはじめとする刺激に注目する機能変容」とかとか説明されていて、こういう意味合いがメインなのかな?と思った。EMAでデータ取って、それが何時か、どんな状況かってのも機能変容を捉える上では良いのではないかと想像。

高橋 (2016)

トラッキング、プライアンス、オーギュメンティングの3つのルール支配行動を中心としたケース。プライアンスがトラッキングへ移行するように、というのが全体を通したテーマだった。要は、セラピストが説明しすぎずに、クライエントに日常生活をよく観察してもらって気付いてもらうってことなんだろう。こういう所でメタファとか曖昧な表現とか、クライエントが隙間を埋めていく余地を残した語りが大切なんだろう。コメントで指摘されたように、私もACTの言う所の自己が良く理解できていないし、取り上げることもできなさそうだ。
 リプライの「エクササイズは、クライエントが自らの内的事象にさらすことができる。これにより言語プロセスがいかに機能しないものであるかをクライエントは直接体験する(Masuda・武藤, 2011)。また、面接室内で直接繰り返し取り上げ操作できることができるという点でも重要なポイントである。面接室内で多くの体験を繰り返すことにより、日常場面への般化をねらっている(武藤・ヘイズ, 2008)」という部分は、話しは変わるけれど、セラピーの中でもっとSSTとかロールプレイをやろうと思った。そういう文脈の持ち込みみたいなことが、あまりできてないな。谷(2016)のじぶん実験の話しとも重なるけれど、「応用行動分析の目的は、行動の予測と制御(あるいは予測と影響)である (Hayes & Wilson, 1995)。応用行動分析の対象とする行動を単に予測するだけでは、十分ではなく、具体的に行動に影響を与える環境変数を取り上げ、具体的に操作しながら、問題の改善を図る。」このあたりが、自分はしっかりできていないなと反省させられた。
 実際に変数を操作をして、その変数が制御力を持っていることを確認する。変えながら、答えを探るってのは、今後のテーマになりそう。
 あとこの、トラッキングとプライアンスの話は、大学の指導教員と学生とか、バイザー・バイジー、リオやってるけどスポーツのトレーナーと選手みたいな、教える人と教えられる人がいる状況では、いろんな所で応用可能なテーマだ。

まとめ

非常に面白い特集だった。(1)ってことは、(2)もあるんでしょう。次号が楽しみだ。でも、ACTの予備知識無い人は本当に「ポカーン」って置いてけぼりになりそうな内容でもあった。
 個人的に、ACTをやるかどうかってのは、難しい問題。かといって、ACTを目の敵にする必要はない。自分の行動療法に生かせるポイントは盛りだくさんのセラピー体系なので、勉強していきたい(体験の回避か?)。


あと、この特集で使われてたACT系質問紙のほとんどは、以下のHPから入手できます。
ACT Japan (ACTツールの紹介)| The Japanese Association for Contextual Behavioral Science ACT Japan (ACTツールの紹介)| The Japanese Association for Contextual Behavioral Science