2018年8月16日木曜日

認知行動分析システム精神療法(シーバスプ:CBASP; Cognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapy)について

慢性うつ病への精神療法であるCBASP(シーバスプ)について興味が湧いたので、情報を調べてまとめていきます。日本語で出版されている書籍は、以下の1つ。

 

CBASP (シーバスプ)とは何か?

CBASPとは、一体何か?ということが掴みにくい。まずは、治療の対象としている慢性うつ病の患者についての記述を引用しよう。

CBASPの対象

  • 決して宿題を完全にやってくることはなかったし、セッションとセッションの間に練習させようとしてもうまくいかなかった p.4
  • 自分の抑うつをコントロールすることは不可能だという凝り固まった信念 p.7
  • 慢性うつ病患者は、論理的な反論や試行、その他の批判的分析的な認知技法を受けつけない。患者は治療者の前で、まるで独り言を言っているようだ p.13
  • 彼らの思考過程は他の人の論理的思考に影響されない p.35
  • 自己や他者に対する見方が非常に自己中心的である p.35
  • 言語コミュニケーションは主に独白的に行われる p.35
  • 対人関係で心から共感する能力を持てていない p.35
  • ストレス下で感情をコントロールすることが苦手である p.35
  • 前提が正しいかどうかを吟味したり、仮説が正しいかどうかを他の人と検証したりすることに価値を置いていないのである p.36
  • 自分自身や自分の問題について一般化した話し方をする(例:「誰も私を好きにならないでしょう」「私がやることはけっしてうまくいかないのです」「私の人生は完全な失敗です」)p.36

CBASPの特徴

CBASPは、他の精神療法プログラムとは区別される8つの独自の特徴を持っている。

  1. CBASPは慢性うつ病のみを対象としてデザインされた唯一の精神療法プログラムである。
  2. 成熟発達の停止が、慢性うつ病の病因と見なされている。
  3. CBASPはうつ病、およびうつ病圏の病気を、「個人×環境」の相互作用という見地から概念化する。こうした見方をすることにより、患者は自分の生活の文脈の中で、自分自身がどのような「刺激価」になっているかについて学ぶ。
  4. 治療目標は、Piaget学派の言う形式操作段階の社会的問題解決能力と、社会的相互作用の営みにおける共感的反応性を促進することである。
  5. 治療者は患者の行動を変容するために、規律正しい方法で、自ら患者と関わることが推奨されている。
  6. 患者の転移の問題は、セッション内での転移仮説構築技法(重要他者歴;Significant Other History)に基づいて概念化され、治療経過を通じて順向的に取り扱われる。
  7. 状況分析(Situational Analysis)と呼ばれる治療技法が、治療セッションにおいて患者の精神病理を際立たせるために用いられる。
  8. 行動を変容させるために、負の強化(negative reinforcement)を主要な動機付けの方略として用いる。

書籍の感想


序文の「私はもはや、かつての私のような厳格な行動療法家ではない。」という McCullough の表現が、とても強く私の中に残っている。そして、やはりCBASPの理論的な根拠は私にとってつかみにくいものだった。慢性うつ病を具体的操作や形式的操作、発達・成熟の問題として捉える部分が、どうにも理解しきれない。慢性うつ病への精神療法には、非常に興味はあるけれど、CBASPを理解して運用するのは、今の私には中々難しい。

効果研究

最後に、エビデンスについて少し論文をあげておく。

第3世代行動療法の研究エビデンスの質があまり高くないという報告が、2008年段階である。ここには、CBASPも登場する。
Ost (2008) Efficacy of the third wave of behavioral therapies: A systematic review and meta-analysis. Behaviour Research and Therapy, 46 (3), 296-321.

もう少し時間が経った2016年での、CBASPのRCTのメタ分。

構造化抄録をGoogle翻訳
背景
 慢性うつ病は重篤で機能障害をもたらす。エピソード的な経過と比較して、慢性うつ病は、薬物療法と精神療法への反応性が低いことが示されている。慢性うつ病のための特定の心理療法として、心理療法の認知行動分析システム(CBASP)が開発されました。しかしながら、無作為化比較試験(RCT)においてその有効性に関する相反する結果が報告されている。したがって、我々はメタアナリシス法を用いてCBASPの有効性を検討することを目指した。
方法
 慢性うつ病におけるCBASPの有効性を評価する無作為化比較試験は、電子データベース(PsycINFO、PubMed、Scopus、Cochrane Central Control of Controlled Trials)の検索、手作業による検索(引用調査、専門家との接触)によって確認された。検索期間は、2015年10月に最初に利用可能なエントリから制限されました。識別された研究は体系的にレビューされました。標準化平均値差(Hedges ' g)は、治療後および平均変化スコアから計算した。ランダムエフェクトモデルを使用して、全体的なエフェクトサイズの合計を計算した。公表バイアスのリスクは、フェイルセーフN計算とトリム・アンド・フィル解析を使用して対処された。
結果
 1.510人の患者を含む6つの研究が、我々の包含基準を満たした。CBASPと他の治療法または通常の治療法(TAU)とを組み合わせた全体的な効果サイズは、有意な効果は小さいと指摘した(g  =  0.34-0.44、P  <  0.01)。特に、CBASPは、TAUおよび対人精神療法(g  =  0.64-0.75、P  <  0.05)と比較して中程度から高い効果の大きさを示し、抗うつ薬(ADM)と比較して同様の効果を示した(g  =  -0.29-0.02 、ns)。CBASPとADMの併用により、抗うつ単独療法(g  =  0.49-0.59、P  <  0.05)。
リミテーション
 含まれる研究の数が少なく、研究デザインと比較条件の間にある程度の異質性があり、CBASPの長期的影響を評価するデータが不十分であるために一般性が制限されています。
結論
 我々は、CBASPが慢性うつ病の治療に有効であるという証拠が裏付けられていると結論づける。

やはり研究の質を高めることが求められている。サンプルを集めることは難しいだろうけれど、慢性うつ病への治療法の開発というのは本当に必要なことであるので、この動向をもう少し見つめていこうと思う。