鈴木伸一・神村栄一「レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド」を読みました。本書は、著者が実際に経験した事例をもとに、カウンセリングの中で、どう対応すべきなのか、着眼すべき点はどこなのかといった「コツ」や「解説」をまとめています。
内容は非常に読みやすく、日常の臨床にも適用しやすいテクニックがたくさん盛り込まれていました。けれど、読み進めていって一番印象に残ったのは、あとがきのなかの記述でした。
目の前のクライエントが、「お世話になりました。おかげで、自分でなんとかやっていけそうです」って、めでたく終結になる日の様子を想像することはありますか。その時、クライエントの主訴はどうなっているでしょう。生活習慣は?苦手な誰かとの付き合い方は?悪化のきっかけとなっていた問題行動は?生活の中に危うさは残っていても、かつてのようにトラブルに陥らない工夫のあり方とその定着を、担当するセラピストとして詳細にイメージすることはできているでしょうか?
さまざまなリスク要因、脆弱さ、運の悪さをかかえたクライエントが、それでもそう遠くない将来、一定水準以上の生活の質を回復された時、目の前にどのような日常が展開されているのか、そのために、むこう数ヶ月から、せいぜい1、2年の間に、いかなる変化が構築されればよいのか、リアルにイメージし、かつ、どこかに拘泥することなく柔軟に、効果的な支援を展開できたら最高です。このあとがきを読むためだけにこの本を買ったとしても僕は全く惜しくない。そう思いました。 認知行動療法を学んでいくためには、書籍を読むこと、研究すること、SVを受けることなど、いろいろな選択肢や方法があります。けれど、認知行動療法行動をクライエントのこまりごとの解決を支援するために適用するには、その遂行が習慣化するためには、実際にやってみてクライエントの変化によってセラピストが強化されることが必須です。行動療法辞典のあとがきで山上先生が「ともかく、いちど患者を治してみることが、行動療法についてももっとも近道の治療法の学習であろう」と書いていることとも本書の趣旨は共通していると思います。
そして、こんなふうにカウンセリングの終結を想像することは、セラピストにとって価値にふれていくための1つの方法であるのではないでしょうか?1回1回の面接では変化が感じにくいかもしれないけれど、長期的な変化を言語的に構成して、その一致で自分の行動を強化する、そうして進んでいって、クライエントの実際の変化に接触して、セラピー行動が強化され、さらに多くの試行錯誤を経て分化強化されていく。そういう多くのセラピストが歩む道を少し先を一緒に歩いてくれている。そんな印象をもった一冊でした。
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